第57回 築30年を越したマンションの大規模修繕
当社は、マンションが築30年を超え、3回目、4回目の大規模修繕工事に取り組む機会が多くなるにつれ、いままで経験したことのない困難さにぶつかりした。
その一例として排水管の更新工事が挙げられます。
みなさんのマンションでも、住戸の内部か玄関先の共用廊下に面してパイプシャフトがあり、そこに雑排水管のたて管が通っていると思います。1980年より前に建設された築30年を超えるようなマンションでは、専有部分内に面してパイプシャフトがあるケースがほとんどでしょう。各住戸から出る雑排水は、通常は専有部分として扱われている排水横管を経由して共用部分のたて管に流れ込み、下水道本管へ向かいます。
排水管は永遠に使えるわけではありません。内部に油脂類などが詰まったり経年劣化したりで老朽化が進み、やがて交換や更生工事が必要になります。ところが、傷んでいる竪管を新しいものに交換しようとすると、とんでもなく面倒な調整が必要になります。
共用廊下に面しているならまだしも、専有部分内にパイプシャフトが面しているマンションで竪管を交換しようとすれば、作業員は当然、専有部分に踏み込まなければなりません。たて管の周囲にある建具を壊したり、水まわりの設備をはずしたりしなければならない事態も発生します。築30年ともなれば、リフォームしている住戸もかなりあるので、工事に取りかかる前に全住戸の水まわりの状態を調べる必要も出てきます。
いざ交換工事となれば、一つのたて管を共用している一系統の全住戸で一斉に給水を停止し、雑排水の発生を止めることになります。当然トイレやシャワーは使えなくなり、炊事もできません。新築と違って住みながら工事を行うリフォームの難しさがここに在ります。
工事の間、同じ系統に属している上下階の住戸には作業員が頻繁に出入りします。建具の取り壊しなどもあり得るので、住人は専有部分を開放して作業に立ち会う必要があります。高圧洗浄による排水管の定期清掃で作業員が数分間、専有部分に踏み込むことはありますが、たて管の交換工事は数分間では終わりません。プライバシーも守れません。
高経年のマンションでは、独り暮らしの老人や寝たきり老人を抱えた家庭もあります。単に寝るためだけに家に帰る独身の現役サラリーマンもいるかもしれません。それぞれの世帯で事情は異なりますが、この工事の時だけは、全戸で待機しなければなりません。
排水管の系統が何十もある大規模なマンションで、限られた工期内で効率よく作業を進めようとしたら、事前調査、日程調整、実際の工事、復旧まで含めて、住民はもちろん、調整役となる監理者も工事業者も、相当の苦労を強いられることになるでしょう。
このように、築30年を超えて迎える3回目、4回目の大規模修繕工事では、それまでの大規模修繕工事では経験していない新たな場面が発生します。排水管の更新だけではありません。マンションの性能向上のためにどんな改修を行うかによってもいろいろなケースが考えられます。マンションの規模や修繕履歴、積立金の残高やマンションの将来像の描き方によって、千差万別、さまざまなパターンが今後、出てきそうです。
とにかく修繕積立金はしっかり積んでおいてください。修繕工事費の合計はマンションを60年持たせようとすると、貨幣価値が同じとして、新築工事費の丁度2倍かかると考えてください。
大規模改修に関する話題をもう一つ。
某マンションは築35年で3回目の大規模修繕を実施するに当たって、外断熱改修を同時に行いました。外断熱改修に踏み切った大きな理由は、「省エネ」よりも「耐久性の向上」だったそうです。外断熱改修を行えば、外壁の大規模修繕工事をその後20年から30年はしなくて済み、結果的に積立金を節約でき、建物の長寿命化を図ることができると区分所有者は考えたのです。
建物の躯体を断熱材で覆いつくし、開口部も複層ガラスの断熱サッシなどに切り替える外断熱改修は、冷暖房負荷の軽減による省エネ効果のほか、外壁や屋上の耐久性を向上させる効果でも注目されています。
ただし、既存の建物を外断熱仕様に改修するのはそう簡単ではありません。施工には細心の注意が必要です。建物の外部をすき間なく断熱材で覆って固定し、紫外線による劣化を遅らせる専用塗料や建材でその上を仕上げなければなりません。建物は実際には歪んでいるのが普通なので、断熱材と仕上げ材の施工には精密さと慎重さが求められます。通常の外壁塗装よりも工事の種類は増え、工事期間は延び、結果的に工事費も増えます。
このマンションは延べ床面積1万㎡ほど。当初は外断熱改修によって増えるコストアップ分は約5000万~6000万円と想定していました。それまで年間約2000万円(80㎡の住戸換算で毎月約2万円)を積み立てていましたが、議論の結果、たとえ5000万円かかっても、長期で見れば元が取れるという結論に至りました。入札の結果は外断熱改修を含む9種類の工事で約1億8000万円。積立金では足りなかったので、4300万円を住宅金融公庫から借りました。管理費や修繕積立金の滞納が少なかったことが幸いし、信用保証協会の代理保証を取り付けることができ、返済計画は3年に短縮できました。
改修の結果、冬暖かく夏は涼しくなったほか、集中暖房のボイラーで燃やす重油の量が以前より2~3割減った、幹線道路の騒音が遮られた、ホコリが侵入しなくなった──といった効果が出ているそうです。資産価値がアップしたという興味深い記述もあります。工事前に80㎡で1000万円前後だったノの地方都市のマンションの中古価格が、工事後に200万円ほど上がったそうです。地場の不動産仲介業者も“外断熱改修”を評価しているようです。外断熱は新築時に実施するのが一番良いのです。計り知れないほどの省エネ効果が在り建物の寿命が飛躍的に伸びます。しかもアメニティが在り、住み良いのです。
これからは中古家屋の市場が欧米並みに拡大します。古いものほど高くなるように、「新しいものが良い」から「古いものは良い」と価値転換が行われる時代になってきたのです。「新らしものの好き」の日本人も頭の切り替えが必要です。
代表取締役所長 山本富士雄
経 歴:1959年3月~1972年11月
(株)三座建築事務所大阪支社及び東京本社にて、集合住宅、電話局、病院、オフィス
ビル、個人住宅等の設計監理に携わる
1972年11月 山本富士雄設計事務所設立
1979年9月 株式会社に組織変更し、代表取締役所長として現在に至る
社会活動:〔社)日本建築家協会関東甲信越支部西東京地域会会長として、2001年4月より2
003年3月まで、西東京地域の住民を対象に「グリーンモール運動」等の活動を行った
(現在副会長)
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