第51回 魅力的な住まい作り
「住宅は環境をつくり、歴史をつくり、文化をつくり、子供を一人前にしつけ、人をつくる」住宅の本質とは本来このような崇高な役割を持つものであり、日本の風土と歴史が作りあげてきた木の文化は、この崇高な理念の上に築かれてきたものなのです。そしてこの偉大な仕事を請け負い、誇りをもって成し遂げていたのが大工棟梁であり、彼らは左官職人や屋根職人といった匠たちをまとめあげ、「家づくり」という組織を統括してきました。
日本には、世界に誇る素晴らしい歴史的建築物が、今も多く残されています。しかしながら、その多くは社寺建築や数奇屋建築な、いわゆる伝統工芸の域にあるものがほとんどで、「民家・住宅」は評価の外に追いやられているのが現状です。その、理由はおそらく、住宅の本質的な役割を果たすためには、小さな村単位の枠の中でしか、民家を作る大工棟梁が活躍できなかった、否、しなかったためだという気がします。
住宅は本来、住み手である家族のために存在するものですから、作り手はその家族の歴史と文化を熟知していなければなりませんし、また子供たち孫たちのことも良く知っていなければなりません。そして何よりも一番大切なことは、地域の風土を熟知し、風土に根ざし、風土を生かしきる知恵と技術を持っていなければならないということです。都会地でもこの考え方は基本的に変わりません。こうした地域に根ざした大工棟梁によって建てられた住宅は、「環境をつくり、歴史をつくり、文化を作り、子供を一人前にしつけ、人を作る」という「人間育成道場」として機能し、日本を支える源にもなっていたのだと思います。
ところが、高度経済成長という波は、この崇高な仕事を住宅産業と言う合理化競争の道具に変えてしまいました。大都市の過剰な人口密度の中、生活するための対処法として、マンションやウサギ小屋が発展して行ったことは、経済優先の枠組みの中で、仕方のないことでもあります。しかし、今や住宅産業は経済的価値観を優先して膨れ上がり、都市部だけでは腹一杯になれず、えさを求めて地方にまで蔓延し量産し、そして地方でもえさがなくなりつつある現在、さらにアジアにまでえさを求めて進出しています。
その結果、シックハウス症候群に侵される人、ローン地獄に苦しむ人、新しい家で家族の崩壊を迎える人など、地方でもこうした人々が増加し社会問題化しています。このままでは、健康な日本の創造を担っていく子供たちを、家庭という道場で正しく育てることが困難になるのではないでしょうか。
これらの問題の原因は、昨今の日本の乏しい住宅観・建築感にあるのではないでしょうか。供給側の「売れるから作る」という住宅観、建築主の「家は建てるものではなく買うもの」という持ち家感観、それらを助長する行政側の「住宅建設=地域経済の発展」という方程式、学歴社会による木造技術者の不足など、さまざまな要素が絡み合っています。
二十一世紀を迎え、日本経済が大きな変革点を迎えた今こそ、原点に戻り、住宅の本質を見つめ直し、合理化競争に埋没する住宅産業ではなく、教育をも視野に入れたコミュニティービジネスとして、地域風土に根ざすことから再び始めなければならないのではないでしょうか。
そして、それができるのは地域に育てられ、貢献している中小零細企業であり、何よりも家を建てようとする建築主自身が豊かな住宅観を持つことが大切なのです。建築家はそうした方をサポートし、文化を作って行くプロフェッション〈職能〉なのです。経済優先に押し流されて志を曲げてはいけないのです。
代表取締役所長 山本富士雄
経 歴:1959年3月~1972年11月
(株)三座建築事務所大阪支社及び東京本社にて、集合住宅、電話局、病院、オフィス
ビル、個人住宅等の設計監理に携わる
1972年11月 山本富士雄設計事務所設立
1979年9月 株式会社に組織変更し、代表取締役所長として現在に至る
社会活動:〔社)日本建築家協会関東甲信越支部西東京地域会会長として、2001年4月より2
003年3月まで、西東京地域の住民を対象に「グリーンモール運動」等の活動を行った
(現在副会長)
感想・ご意見 architect@f-yamafuji.com
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