感動受注経営学校

第29回 建築界が改めるべき6つの問題点

2006年04月30日

 構造計算書偽造事件は「氷山の一角か」
今回の一連の事件は想定外のことであり、「特異なケース」であると、私は事件当初考えた。その後マスコミによって同様に見えるケース(九州サムシング建築事務所、北海道(浅沼2級建築士事務所)等)が報道されるに従って、世間一般のみならず、建築界にも「氷山の一角」論が出てその見方が揺れている。この事件を教訓に建築界が見直し改めるべき次の6つの問題点について、改めて私見を述べたい。

1・義務と責任のあいまいな建築士制度
2・民間確認検査機関と特定行政庁のありかた
3・ブラックボックスの構造計算
4・偽造やミスが見抜けない建築検査の手法
5・問題がおきた時の保証・保険制度
6・望ましくない建築主

始めに
姉歯事件は特異なケースと信じたいが福岡のサムシング事務所、札幌の浅沼2級建築士など同様な事件もある、そして今後もこのままでは起こりうると私も考えるようになった。

  アンケートによれば、姉歯事件が氷山の一角と考える人は、
  ・ 構造事務所では40%
  ・ 意匠事務所では48%
  ・ 大手設計事務所では70%
  ・ 建設会社では60%
----------------------------------------------------------------------------
    全体では50%

が「氷山に一角」と考えている。恐ろしい数字である。建築界は一丸となって信頼を取り戻す具体的な対策を立て、実行しなければならない。 


1・義務と責任のあいまいな建築(家)士制度

 精神論と言われ、時代錯誤といわれるかも知れないが、建築家と言われる人間にプロフェッション精神を植えつける教育をする事が基本であると私は思う。大學で、職場で、先生・所長・先輩がこの精神を教え、建築家を志す人間が身ににつけて行かない限り、このような問題の根本的解決にはならないと考える。
「世のため人のため自らを犠牲にしても尽くす」と言うプロフェッション(職能)精神は、西欧のキリスト教精神に由来するものであり、現代の資本主義社会にはなじみ難いものであり日本には定着しなかったと言える。「神の代理人としての使命感を持て」といっても殆ど現代の金儲け最優先の世の中では理解されない。私が教えを受けた建築家の先生は(丹下健三と同期)、「請負から煙草の火も借りるな」と言う言葉でこの教育を所員の全てに厳しく教えた。建設会社の下請けはご法度(それでは建築家でない)リベートの授受など問題外、粉骨砕身「金儲けは一切考えず、貧乏をして世のため人の為に良いまちづくり・建築作りに職人的に愛情を持って働き奉仕せよ」「精神は高潔に貴族であれ」と教えられた。資本主義社会ゆえプロフェッション人の生き方は厳しいが、それを選んだ以上「筋を通して滅びるなら、美しく滅びなさい」とまで教育された。ごく少数になってしまったがこのような建築家はまだいる。ごく一部に「医は仁術」と言うこの精神を持った医者がいる。この教育を建築界のみならず世の中にし直さない限り、良い展望はないと考える。
 現在の建築士制度では、建築士がオールマイティでその責任を負うことになっている。現実にはそれは不可能なほど建築は専門化している。意匠、構造、電気設備,機械設備と言う資格などを分化させ担当建築士の明示、かつ対等にしその責任の所在を明確化することの法制化が早急に必要である。構造設計者、設備設計者として設計図書に記名捺印する必要がある。また、資格の更新制度もなさるべきだ。工事監理の徹底とその報酬基準の実効性の確保も必要である。
 すべての建築士が日本建築家協会(JIA)などの職能(専門職)団体に所属することも法制化すべきである。そのプロフェッション団体の厳しい職能倫理の中で、義務権限と責任を明確にし、その倫理を犯す行動をとった会員には除名、資格剥奪等の厳しい罰則処置も定めなければならない。第二の姉歯事件を起こさない為にも法制化すべきである。何よりも建築家は独立の気概を持ち、誰にも従属しない、その尊厳を失わない設計・監理発注の社会システムを作らない限り、このような事件は再発する可能性がある。


2・民間確認検査機関と特定行政庁のありかた

 民間確認検査機関が批判の矢面に立たされている。マスコミにはこの実態は分り難いと私は考える。現在のシステムでは構造偽造は容易に発見されないことが問題である。そもそも建築確認制度は認可や許可ではなく、その設計が建築基準法などの規制を満たしている、偽造や違反など無いという前提に立って、確認することがその業務である。つまり性善説に立った処置であると言える。
建築主事は建築構造計算書など見ないで、構造担当が目を通すだけである。
また、構造計算書を見ただけでは単純な差し替え書面以外、偽造は容易には分らない場合が多い。構造設計図をしっかり見て、柱の太さや、梁の大きさや配列に疑問の目で注意深く見て、自ら再計算して初めて発見できるものだ。そこまでやることを前提にしていないからやらないのである。
建築確認が民間にも一部移行され、むしろ過剰な期待感を一般の方が持ったのではないだろうか。事実は異なるのである。日本国中の現存する構造計算書を全て再チエックしただけで、かなりの問題が発見されパニックになりかねない。今回の事件でマスコミは専門紙を除き基礎地業(基礎と地中梁と杭および地盤改良)について触れていないが、基礎こそが一番大切である。基礎工事の現場は後から容易にチックできないこともあるが、構造図と計算書と施工報告書はチェックできる。基礎の手抜きが一番恐ろしい。
また、できあがった建物は計算書チェックと現場検証(鉄筋・鉄骨のレントゲン調査・溶接調査コンクリート)強度検査(シュミットハンマー打設・コア抜き検査・一部破壊検査)の両方が必要である。計算書と構造図どおりに出来ており、配筋も正確でありコンクリートが所定の強度を全て有しているかのチェックには大変な費用と日時がかかる。
民間にも官公庁にも、検査機関はあるが、耐震診断には詳細なチェックを依頼すると、500万円から1000万円以上はかかる。
民間にも官公庁にも、優秀な経験豊富な構造技術者が検査官としている訳でもない。確認処分〈確認通知書を発行すること〉と性能表意とは別の期間にわけるべきであろう。判定機関の新設等新たな確認体制も行政が主体でその補助に民間を使う等種々模索されているが、具体的な中身が明らかになっていない現状ではその実現性に疑問があるといわざるを得ない。


3・ブラックボックスの構造計算

 コンピューター用建築構造計算認定ソフトは約100種類と言われているが、そのソフトを改ざんできる構造設計者も居るようである。入力値を操作して応力を低減したものを作り、正しく入力したものを巧妙に組み合わせて、「入力条件適正、結果適合」と言う計算書を偽造することは比較的容易で、その手口を発見し偽造を見抜くのは、大変な時間と費用を要する。出力データをテキストとして吐き出して編集すれば、意図的に認定番号を打ち出す事が可能と言われている。姉歯元建築士は「剛性率改ざん」「書類切り抜き張り合わせ」「計算指数の低減」の3つのやり方で偽装した。だんだん単純大胆手抜きになっている。2番目と3番目を検査官が見抜けないのは見てないといわれても仕方ないと思う。数字の書き換えは容易には見破れないようではある。姉歯元建築士は異常でこれと同じケースは無いと言ってよいと思う。米国の一部の州で行なわれている、専門家同士が複数チェックする「ピアチェックー同等の能力ある者の再チェック」を義務付ける方法もあるこれは是非法制化したい。計算書ではなく、構造図を疑いの目で繰返し見直して、不審な個所を再計算して見破ることになる。100種類以上あるソフトの共通統一ソフトを作り、全ての検査機関がこれを備えピアチェックをして不正を見抜くシステムをつくるべきだ。コンピューターに依存し過ぎで安全に対し実感のない計算が、当たり前になっている。入力方法さえ覚えれば、中学生でも計算書は作れる。力の流れなど構造体に対する構造的な考え方が大事なのにそれが欠落している場合が多くなったと思う。手計算の時代には安全を充分に見たので、四十年以上も前の建築の方が安全と言うこともある。(木杭で腐ったものは危険であるが)かくのごときブラックボックスが構造計算にはある。改ざん可能なコンピューターソフト・プログラムを大臣認定したことも問題である。また、強度不足と言う判断も認定方法を違うやり方にすると一転「安全」と言うこともある。水平耐力1以下といっても構造計算担当者により数字は相当に異なる場合もある。(不動産鑑定士の数値の違いに似ているように思う)耐震基準はダブルスタンダードと言われ、保有水平耐力計算と限界耐力計算があるが、それぞれかなり異なった結果が出る。パソコン時代の生まれた限界耐力計算の安全率はかなり低く、安全と出ても余裕を見ないといけないと言われている。強度は計算法次第と言われる所以である。他に「時間暦応答解析」と「エネルギー法」と言う計算法もある。構造専門家の考え方次第で安全はかなり左右されると言えるのが現状である。ピアチェックが必須と言うことも納得できる。また再チックにはJIAkント費用がかかる。
 これらのことの法制化の原案はすでに出来ている。2~3年たてば、かなり期待できるシステムも作れると思う。


4・偽造やミスが見抜けない建築検査の手法

 建築監理及び検査は設計者あるいは第三者監理で、日常的に現場へ出向しチェックしない限り偽造や設計ミス、工事ミスは見抜けないのが通常である。5億円を超える工事でないと監理者の常駐の費用的に無理であろう。一回/週程度の現場出向では完全な監理等出来ないのは当然である。安全を求めるなら高い費用がかかることを注文者や使用者にも知って頂きたい。法的に中間検査の回数を増やし、数多くの工事段階で写真提出を義務付ける提案もあるが、デジカメ写真は用意に改ざんできるのでどこまで実効があるか疑問である。常時カメラを相当数量設置し、ホームページで流しパソコンで誰でもいつでも監視しチェックする方法も実行すべきだ。また検査官が現場(特に構造)を良く知らないと言う問題もある。背広姿でヘルメットもかぶらず、検査している役所の担当官も居たが言語道断である。また、施工者も鉄筋が少ないのではないか、梁や柱の寸法が足りないのではないか、上階まで柱の断面・梁の断面が同じで鉄筋量も同じなのは、(木村建設がやったように、型枠の繰返し使用も出来て経済的ではあるが、)下階の断面が大きくないのはおかしいのではないか、などと経験上疑問を持つはずである。施工者も設計図どおり作れば責任はないと考えているとしたら、「ものづくり」の精神を失ったといわざるを得ない。大手の建設会社が法を侵して工事を丸投げして居る現実もある。また、「構造歩掛かり」でチェックし、基準値から離れたものはチェックすると言う簡単な方法もある。これも是非導入したい。多民族国家の欧米の建築検査法を大いに参考にし、至急導入する事が望ましい。
 竣工検査を受け、検査済証を受けている建築物は70%に満たない。住宅はおそらく50%を切って居るだろう。検査済証がなければ保存登記を認めないとする法制化も急がなければならない。建築法規も総合的に見直し実態と合致しないものは改正しなければならないのは論を待たない。その上で法を遵守するのは当然である。
 伝承を忘れ、職人を育てず、新しいものばかり尊重し、金儲け最優先の拝金主義つけがここに極まったと言わざるを得ない。
 立法・行政・司法の三権分立のように、設計・監理と施工・検査は分立させるべきであり、設計・監理者が施工者の下に入ることは近代的でないと考えざるを得ない。長い歴史がある日本独特の「設計施工」と言うシステムも、改めるべき時が来たと考えている。
 建築主を含めて、開発業者、設計者・監理者・施工者が皆インチキをやらない、手抜きをしない、金儲けに走らない、嘘をつかない、真面目に誠実に職人根性を持って良いものを作るというものづくりの倫理・精神を取り戻さなければならない。
 ものづくりの原点が、経済優先、効率優先、拝金主義、無責任横行のため失われ、建築産業が空洞化してしまったことを反省し、改める以外に道はないと思う。しかしこのことは一建築界だけではなく資本主義社会が改めるべき問題であり、世の中を修正資本主義の方向に変えて行かなければならないと考える。


5・問題がおきた時の補償・保険制度

 各種保険制度の充実については前述したが、阪神大震災でマンションの様々の問題点がクローズアップされ議論され、その一部は法改正等で良い解決を見たが、大部分は未解決のままである。
 今回のマンションやホテルなどの欠陥建築の被害者に誰がどう保証するかは、大変難しい問題であるが、政府の取り組みも敏速かつ効果的であった考えられるし、補償に焦点を絞って解決策を探ることが必要であろう。将来は保険制度の充実と罰金刑の金額の引き上げ、刑事責任には懲役刑の導入など罰則規定の改定も有効であると思う。米国では、建築家も医者も信じられないほどの賠償責任保険料を払っている。それが上乗せされ、さらに消費税が将来信じがたいほど(20%近くまで)高くなると、世界一高い建築を作っている建設産業は益々高価なものになるが、生命を守り安全を買うためには「高価」を受け入れ、安い建築を求めることは危険であると言う認識が普遍化することを望まれる。 
 販売してから10年間は販売会社に欠陥補償させる法律や住宅性能保証制度も一応あるが、欧米の強制加入保険のように確実に補償させる制度ではない。
 販売者は、保険会社に構造上の瑕疵について保険料を支払うことを制度化し、保険会社は構造上の欠陥の有無について自ら調査し、危険とみなす建築物には高い保険料を請求する、場合によっては保険加入を拒否する。また固定資産税も安全な高価な建築物は安くする工夫も必要であろう。
確認処分に対してその責任を取ってもらうためには、確認検査機関に公的民間を問わず、責任賠償保険加入を義務付けるべきだ。同時に、分譲マンション業者など、その事業者に賠償保険加入を義務付けるべきであるが、保険業界は「引き受けた際のリスクが見えないと言って反対している。保険加入が強制の場合は、政府が保険を引き受け、さらに銀行保証をつけるなどの選択肢も視野に入れる施策が必要であろう。フランスでは事業者に責任保険、建築主には物保険と二重の強制保険を並べていると聞くが、制度を維持する保険料が高額で、求償にコストがかかりすぎると言われている。
 耐震偽装でなくとも地震で倒壊しそうな建築(特に住宅)は日本全国にごまんとある。1981年の新基準を下回る既存不適格の住宅は1150万戸あると推定されるが耐震補強は遅々として進まない。住み手に先立つお金に余裕がないという現実がある。新耐震以前の1981年以前の設計と施工の建築の中で半分近くが地震度5強の地震で危険と言う専門家の話もある。中層の壁構造の建築は安全としても、鉄筋コンクリートの高層建築、鉄骨建築(溶接等に問題あり)さらに超高層建築も耐震補強が叫ばれている。
地震大国の日本の住宅政策やまちづくりはどうあるべきか、今回の事件を踏み石として、基本的な法制度を改め、公共と民間の役割を問い直し改めなければならない。
公的資金投入は公平でないと言う意見もある。過去の大地震の際の政府の補償と比較して、今回政府の処置が不公平だという意見にはかなりの賛成意見がある。充分論議して慎重に対処する事が必要であろう。


6・一般ユーザーの意識改革が必要

 建築の世界でも「安く早く良いものを」も止めることを理解は出来る。しかし建築主が、経済(金儲け)最優先、効率優先を設計・監理者、施工者、開発者などに求め過ぎることは良い結果を生まない。「東横イン」ホテルに見られるごとく、経済優先のため違法を設計者に強制する建築主も居る。現実的で無い条例などに抵抗するのは誤りではないが、法は法でありまず遵法精神で先ず法を遵守して、それから法の現実性の無いことを争わなければ順不同であると言わざるを得ない。建築家はこのような話は一切断らなければならない。設計・監理報酬を値切る建築主も多い。形として目に見えないものに金を払いたがらないという姿勢は野蛮であると言わざるを得ないが、これは悲しいことに横行している。
 残念ながら職能人の中で建築家が一番恵まれていないと思う。それでは命や財産に関わる厳しい仕事をしている職能人には不幸すぎる。後に続く建築家のためにも手前味噌といわれようと、職能人に充分報酬を払って下さいと言いたい。
 建築主に充分な情報発信をして、理解を求め過保護とも言える建築主の意識を改革して頂く必要があると思う。確認申請期間も3週間が、5週間〈特殊なものは10週間〉に延長され、確認申請手数料も3倍から5倍に上がり、建築主負担が明記される案も実現するであろう。建築主も含めて違反者には罰金刑だけではなく懲役刑も導入される。議会や専門分野で、エンドユーザーを意識した、社会のコンセンサスを得られそうな案が種々議論されている。これらの情報を十分社会に発信して、3年くらいかけて良い法律・制度を作らなければならばならない。
 人間の真の幸せは何であるのかを良く考えたならば、どうあるべきか分るはずである。最後に建築家や医者や法律家、宗教家などの職能人には、信頼こそが一番大切であると申し上げてこの小論文の筆をおく。

山本.jpg

(株)山本富士雄設計事務所
 代表取締役所長 山本富士雄

経  歴:1959年3月~1972年11月
      (株)三座建築事務所大阪支社及び東京本社にて、集合住宅、電話局、病院、オフィス
      ビル、個人住宅等の設計監理に携わる
      1972年11月 山本富士雄設計事務所設立
      1979年9月 株式会社に組織変更し、代表取締役所長として現在に至

社会活動:〔社)日本建築家協会関東甲信越支部西東京地域会会長として、2001年4月より2
      003年3月まで、西東京地域の住民を対象に「グリーンモール運動」等の活動を行った
      (現在副会長)

感想・ご意見 architect@f-yamafuji.com
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