感動受注経営学校

第22回 『変幻自在のローコスト住居の未来』

2006年02月21日

●1軒の戸建住宅を持つことがが、ステータスシンボルだったのは30年も前の話である。住宅メーカーが相次いで打ち出した坪25万円住宅や、建築家たちが提唱したローコスト住宅が、価格破壊のスタートだった。しかし、それらは従来住宅のコストダウンであり、その後の「チープ化」と呼ばれる現象とは大きな隔たりがあった。 

チープ化とは、100万円もするシステムキッチンの代わりに低価格の調理台やガステーブルを用いて10万円以下に、数十万円の収納家具をベニヤ合板の低価格家具に置き換えて数万円にと、多くの什器・設備をチープなもので済ますという動きである。安っぽさは否めないが、デザイン性の高い商品が揃ってきたので、従来の高級設備は一部の住宅以外では見かけなくなった。他にも、低価格照明機具の選択や、壁紙の省略などもチープ化といえるだろう。  


●その一方で、20世紀末に提唱された「100年住宅」は2010年代には定着し、日本でも欧米のような住宅の長寿命化が実現するだろう。100年間持ちこたえる鉄骨ラーメン構造の骨格と外壁は決して安価ではないが、住む人は毎年その100分の1のコストを負担するのみである。メンテナンス費込みで100万円としても、50坪の住宅で年に50万円だ。定期借地権つきの土地が少し普及したことも、ローコストに拍車をかけた。


●また品確法による住宅性能表示制度も施行された。この一年で4.7%とまだまだ普及率は低いが、ハウスメーカーはこれを商品販売促進の自社製品差別化戦略として積極的に取り入れようとしている。マニュアルをしっかり勉強するとこれはかなりのコストアップに繋がる。斜めや円形の壁、スキップフロアなどはマニュアルになく大変設計に手間と費用が掛かる。〔ちょっと複雑だと一軒100万円はかかりそう〕均質でない、容易に他人が真似できない独創的な家を設計しようとすると大変なエネルギーとコストが掛かる。非凡なマニュアル通りのものしか作れない。法が未整備と言わざるを得ない。


●チープ化やローコスト化の陰で台頭してきたのが「キャリア」と総称される一連の「ロボット」であろう。地下室+3階建+屋上という多層化で不可欠になった「ホームエレベータ」は、中二階への停止も可能なスキップフロア対応型となった。フロアの高さを変えたり、間仕切り壁を移動させたり、家の向きを変えたりする「構造キャリア」は、手軽な間取り変更を可能にした。

床下・小屋裏収納等の狭い空間にびっしり荷物を詰め込んでも、自動で目的の品物を出すことが出来る「収納キャリア」は、収納革命といわれた。これらは、家財道具の運搬にも利用できる。「住まいの主役は人ではなく物なのか」と揶揄されることもあるが、物がなくて生活はないのである。 構造キャリアによって「可変間取り」が可能になって以来、20世紀には見られなかった風変わりな間取りが登場している。ベッド一個が入るだけの最小寝室、庭へ移動できるバスタブ、移動階段、天井高の高い2階建てから天井高の低い3階建てへの転換、個室にもなるバルコニー等である。従来、間取り変更が困難とされた都心の狭小住宅で、こうしたテクニックが活用されているようだ。かつて「カプセル・ハウス」が注目を浴びたように、一連の「キャリア」は現代を象徴する産物である。住宅のスタンダードが決まっているアメリカやヨーロッパの町並みに比べると、こうした日本の現代住宅は相変わらず統一感に欠けた景観を生み出すが、これこそが戦後日本のスタンダードなのである。


●外観は異質であっても、周囲のことを考えていないわけではない。住宅の高層化で採光が難しくなってきたため、住宅街では「計画的借景」が注目されている。一つの庭を3、4軒で共有したり、公園近くの家は遠くの家から公園が見えるよう配慮したりという具合だ。密集地では、窓が模様ガラスだったり目隠しが必要だったりするものだが、予め隣家と協議することで視線の問題も解消される。それは、「屋上緑化」ともリンクしている。住宅の屋上間を橋で結ぶ回廊は地域の共有空間であり、密集地での災害対策としても役立っている。  


●建築家や住宅メーカー主導型から、住人主導の家づくりへと変わったわけだが、それゆえに使い勝手が悪かったり、安全性が損なわれたりするケースも増加している。だが、それらは建てた後からいくらでも、あまりコストをかけずに改善できるのだ。多少まずい点があっても、それは各人の趣向である。そして、次に住む人が自分たちの好みに合わせて間取りを組み換える。結局のところ住宅の差異は、大きさと立地だけとなるだろう。流行を吸収して常に変化し続ける住宅こそ、古びない長寿命住宅なのであると言える。


●その長寿命住宅をヨーロッパに見られるように、借景よりも貸景を考えて〔例えば花で窓辺やバルコニーを飾る〕美しい町並みを作って基本的にはそれを変えない、つまり外観はあまり変えないでインテリアや設備だけを変えて、100年もいや200年も住み続けるようになって欲しいと考えるのは少数派の意見であろうか。建設業はマイナーになるだろうし、建築家も1/5くらいに減るかも知れない。新築・増改築が減るからである。それでも美しく住み良い家と町並みができた方が良いと考える文化人が増えるよう、美を愛する建築家として説得を続けたい。以上


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(株)山本富士雄設計事務所
 代表取締役所長 山本富士雄

経  歴:1959年3月~1972年11月
      (株)三座建築事務所大阪支社及び東京本社にて、集合住宅、電話局、病院、オフィス
      ビル、個人住宅等の設計監理に携わる
      1972年11月 山本富士雄設計事務所設立
      1979年9月 株式会社に組織変更し、代表取締役所長として現在に至る

社会活動:〔社)日本建築家協会関東甲信越支部西東京地域会会長として、2001年4月より2
      003年3月まで、西東京地域の住民を対象に「グリーンモール運動」等の活動を行った
      (現在副会長)

感想・ご意見 architect@f-yamafuji.com
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