感動受注経営学校

第16回 『構造計算書偽造事件―2』

2005年12月14日

構造計算書偽造事件は社会に大きな衝撃を与え、その波紋が広がっている。

このことはまったく想定外のことであり、前代未聞の愚行である。建築家への信頼は地に落ちてしまった。様々な問題と矛盾が現実に晒され、建築界には厳しい批判が渦巻いている。 この事件を教訓に今建築界が見直し改めるべき次の5つの問題点について私見を述べたい。

1・義務と責任のあいまいな建築士制度
2・民間確認検査機関と特定行政庁のありかた
3・ブラックボックスの構造計算
4・偽造やミスが見抜けない建築検査の手法
5・問題がおきた時の保証・保険制度


1・義務と責任のあいまいな建築士制度

現在の建築士制度では、建築士がオールマイティでその責任を負うことになっている。現実にはそれは不可能なほど建築は専門化している。意匠、構造、電気設備,機械設備と言う資格などを分化させ、かつ対等にしその責任の所在を明確化することの法制化が早急に必要である。(意匠設計家が総括する必要はあり、その建築家の名で代表するのは差し支えないと思う)すべての建築士がJIAなどの職能(専門職)団体に所属することも法制化すべきである。その団体の職能倫理の中で、義務と責任を明確に認識し、その倫理を犯す行動をとった会員には除名、資格剥奪等の厳しい罰則処置も定めなければならない。


2・民間確認検査機関と特定行政庁のありかた

民間確認検査機関が批判の矢面に立たされている。マスコミにはこの実態は分り難いと私は考える。現在のシステムでは構造偽造は容易に発見されないことが問題である。そもそも建築確認制度は認可や許可ではなく、その設計が建築基準法などの規制を満たしている、偽造や違反など無いという前提に立って、確認することがその業務である。つまり性善説に立った処置であると言える。
建築主事は建築構造計算書など見ないで、構造担当が目を通すだけである。
 また、構造計算書を見ただけでは偽造は容易には分らない。構造図をしっかり見て、柱の太さや、梁の大きさや配列に疑問の目で注意深く見て、自ら再計算して初めて発見できるものだ。そこまでやることを前提にしていないからやらないのである。建築確認が民間にも一部移行され、むしろ過剰な期待感を一般の方が持ったのではないだろうか。事実は異なるのである。日本国中の現存する構造計算書を全て再チエックしたら、かなりの問題が発見されパニックになりかねない。また、できあがった建物は計算書チェックと現場検証の両方が必要である。計算書と構造図どおりに出来ており、配筋も正確でありコンクリートが所定の強度を全て有しているかのチェックには大変な費用と日時がかかる。
民間にも官公庁にも、検査機関はあるが、耐震診断には詳細なチェックを依頼すると、500万から1000万円はかかる。
民間にも官公庁にも、優秀な経験豊富な構造技術者が検査官として充分いる訳ではないことも付言したい。


3・ブラックボックスの構造計算

 コンピューター用建築構造計算認定ソフトは約100種類と言われているが、そのソフトを改ざんできる構造設計者も居るようである。入力値を操作して応力を低減したものを作り、正しく入力したものを巧妙に組み合わせて、「入力条件適正、結果適合」と言う計算書を偽造することは比較的容易で、その手口を発見し偽造を見抜くのは、大変な時間と費用を要する。出力データをテキストとして吐き出して編集すれば、意図的に認定番号を打ち出す事が可能と言われている。数字の書き換えは容易には見破れないのである。米国の一部の州で行なわれている、専門家同士が複数チェックする「ピアチェック」を義務付ける方法もある。計算書ではなく、構造図を疑いの目で繰返し見直して、不審な個所を再計算して見破ることになる。コンピューターに依存し過ぎで安全に対し実感のない計算が、当たり前になっている。手計算の時代には安全を充分に見たので、四十年以上も前の建築の方が安全と言うこともある。(木杭で腐ったものは危険であるが)かくのごときブラックボックスが構造計算にはある。


4・偽造やミスが見抜けない建築検査の手法

建築監理及び検査は設計者あるいは第三者監理で、日常的に現場へ出向しチェックしない限り偽造や設計ミス、工事ミスは見抜けないのが通常である。5億円を超える工事でないと監理者の常駐の費用的に無理であろう。一回/週程度の現場出向では完全な監理等出来ないのは当然である。安全を求めるなら高い費用がかかることを注文者や使用者にも知って頂きたい。法的に中間検査の回数を増やし、数多くの工事段階で写真提出を義務付ける提案もあるが、デジカメ写真は用意に改ざんできるのでどこまで実効があるか疑問である。また検査官が現場(特に構造)を良く知らないと言う問題もある。背広姿でヘルメットもかぶらず、検査している役所の担当官も居たが言語道断である。また、施工者も鉄筋が少ないのではないか、梁や柱の寸法が足りないのではないか、上階まで柱の断面・梁の断面が同じで鉄筋量も同じなのは、(型枠の繰返し使用も出来て経済的ではあるが、)下階の断面が大きくないのはおかしいのではないか、などと経験上疑問を持つはずである。施工者も設計図どおり作れば責任はないと考えているとしたら、「ものづくり」の精神を失ったといわざるを得ない。
 伝承を忘れ、職人を育てず、新しいものばかり尊重し、金儲け最優先のつけがここに極まったと言わざるを得ない。建て主が現場に複数のカメラを設置してインターネットで施工状況を監視する方法もある。
 建築主を含めて、開発業者、設計者・監理者・施工者が皆インチキをやらない、手抜きをしない、金儲けに走らない、嘘をつかない、真面目に誠実に職人根性を持って良いものを作るというものづくりの倫理・精神こそがもっとも大事なのである。
ものづくりの原点が、経済優先、効率優先、金儲け主義、無責任横行のため失われ、建築産業が空洞化してしまったことを反省し、改める以外に道はないと思う。


5・問題がおきた時の保証・保険制度

阪神大震災でマンションの様々の問題点がクローズアップされ議論された。
その一部は法改正等で良い解決を見たが、大部分は未解決のままである。
今回のマンションやホテルなどの欠陥建築の被害者に誰がどう保証するかは、大変難しい問題であるが、政府の取り組みも敏速かつ効果的であった考えられるし、補修に焦点を絞って解決策を探ることが必要であろう。将来は保険制度の充実と罰金刑の金額の引き上げ、刑事責任には懲役刑の導入など罰則規定の改定も有効であると思う。米国では、建築家も医者も信じられないほどの賠償責任保険料を払っている。それが上乗せされ、さらに消費税が将来信じがたいほど高くなると、世界一高い建築を作っている建設産業は益々高価なものになるが、生命を守る安全を買うためと理解して安い建築を求めることは危険であると言う認識が普遍化することを望まれる。 


 耐震偽装でなくとも地震で倒壊しそうな建築(特に住宅)は日本全国にごまんとある。1981年の新基準を下回る既存不適格の住宅は1150万戸あると推定されるが耐震補強は遅々として進まない。住み手に先立つお金がないという現実がある。

 「地震大国の日本の住宅政策やまちづくりはどうあるべきか、今回の事件を踏み石として、基本的な法制度を改め、公共と民間の役割りを問い直し改めなければならない。


山本.jpg

(株)山本富士雄設計事務所
 代表取締役所長 山本富士雄

経  歴:1959年3月~1972年11月
      (株)三座建築事務所大阪支社及び東京本社にて、集合住宅、電話局、病院、オフィス
      ビル、個人住宅等の設計監理に携わる
      1972年11月 山本富士雄設計事務所設立
      1979年9月 株式会社に組織変更し、代表取締役所長として現在に至る

社会活動:〔社)日本建築家協会関東甲信越支部西東京地域会会長として、2001年4月より2
      003年3月まで、西東京地域の住民を対象に「グリーンモール運動」等の活動を行った
      (現在副会長)

感想・ご意見 architect@f-yamafuji.com
 H   P   http://www.f-yamafuji.com/


« トップへ戻る